2026年7月、オーストリア・ウィーンで開催された「VieSID Summer School 2026」に参加しました。
VieSID Summer Schoolは、咬合や顎関節、顎口腔系の機能について学び、臨床や研究について議論する研修会です。
私自身、これまで何度も参加してきましたが、毎回新しい知識を得るだけでなく、自分の診療を振り返る機会にもなっています。
今回のテーマは、
Follow the Rule of Nature
自然のルールに従う
というものでした。
成長期の矯正治療について発表しました
今回私は、成長期に行った矯正治療の長期経過について発表しました。
演題は、
Long-Term Effects of Mandibular Repositioning Using Overlay in Early Stage of Growth
「成長早期にオーバーレイを用いて下顎位を誘導した治療の長期的効果」
です。
成長期の骨格性Ⅱ級不正咬合、いわゆる下顎が相対的に後方に位置している患者さんに対して、オーバーレイという下顎の成長をコントールする装置をもちいて治療した症例を、成長が進むまで経過を追った結果を分析しました。
成長期の治療がうまくいったかどうかを評価するのは実はとても難しいです。治療直後だけを見れば、うまくいったように見えることがあります。
理由としては、治療がうまくいったとしても、治療によって変化したのか、もともとの成長によって変化したのかを、簡単には区別できないのです。
しかし、本当にその治療が患者さんの将来にとって意味のあるものだったのかを考えるには、成長が進んだ後まで観察する必要があります。
今回の発表では、長期経過の資料と比較対象のデータを用いながら、早期治療が顎顔面の成長にどのような影響を与えた可能性があるのかを検討しました。
当院での治療結果がある程度効果のあるデータが確認できたので今後論文としてまとめたいと思います
エビデンスだけでは決められないこと
現在の医療では、エビデンスがとても大切です。
自分が経験したから。過去にうまくいったから。有名な先生が言っていたから。
それだけで治療の正しさを決めることはできません。
研究から得られた科学的根拠を確認し、自分の考えを疑う姿勢が必要です。
一方で、実際の臨床におけるすべての疑問に、明快な答えが用意されているわけでもありません。
特に口腔は、単に歯が並んでいる場所ではありません。
噛む、飲み込む、話すといった複数の機能を担い、
歯、骨、歯周組織、顎関節、筋、神経などが互いに関係しています。
一つを変えれば、ほかの部分にも変化が起こります。
その変化をすべて予測することはできません。
だからこそ、十分なエビデンスがない場面では、
「自然のルールから大きく外れていないか」という視点が必要になるのだと思います。
「自然だから正しい」わけではありません
自然のルールとは、何か神秘的なものではありません。
身体が持っている構造や機能、成長の方向、力に対する組織の反応、そして生体が適応できる範囲です。
治療する側が考えた理想の形に身体を無理に合わせるのではなく、
その患者さんの身体がどこまで変化を受け入れられるのかを考えることだと思っています。
ただし、「自然だから正しい」と無条件に考えることも危険です。
自分にとって都合のよい考えを「自然のルール」と呼び、検証せずに信じるようになれば、それは科学ではなく信念に近づいてしまいます。
科学と自然は、対立するものではありません。
エビデンスとは、自然の中で起きていることを人間が観察し、比較し、少しずつ確かめてきた記録です。
長期的に患者さんを診るということ
人間が自然の仕組みを完全に理解することは、おそらくできません。
だからこそ、分かったつもりにならず、治療中だけでなく治療後の経過も観察する。
予想と違う変化が起きたときには、患者さんの身体を疑うのではなく、自分の診断や治療方法を見直す。
今回のSummer Schoolを通して、その姿勢の大切さをあらためて考えました。
「Follow the Rule of Nature」
自然のルールに従うとは、自然を分かったつもりになることではなく、目の前の患者さんから学び続けることなのかもしれません。
今回学んだことを、これからの診療や研究、そして歯科医師への教育活動にも生かしていきたいと思います。




